妖怪コレクションvol.1 「子泣き爺」エピソード編

ある男性が、夜遅くに最寄り駅から自宅へと田舎道を徒歩で帰ってるときのこと。

からしばらくは街灯もあってまだ明るいのだが、ある程度行くともうそこから先は真っ暗闇になってしまう。

かろうじて月や星の明かりを頼りに家まで帰ることになる。

それぐらいの田舎。

とぼとぼと歩いていると、どこからともなく「おぎゃあおぎゃあ」と赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

ん??と思って辺りを見回す。

どうやら道の脇から田んぼに抜ける畦道から聞こえてくるようだ。

捨て子でもあれば大変と、男性は畦道へと向かった。

たしかに、そちらに歩くと「おぎゃあおぎゃあ」という声は大きくなった。

さっきの道よりさらに暗い畦道では視界がほとんどない状況。

近いな、と思ってふと足下を見下ろすと、微かな星明かりの中で何か黒い物体がうごめいている。

う、何だ?と思ったが泣き声はそこから聞こえるものだから、恐る恐る手をさしのべた。

温かく、そして柔らかい。
赤ん坊だ・・・

「おぎゃあおぎゃあ」

相変わらず大きな声で、泣いている。

顔は見えないが、感触と声から赤ん坊だ。

「おお、よしよし。こんなところに捨てられて可哀想に・・・」

「おぎゃあおぎゃあ」

相変わらず泣いている。

しかしどうしたもんかなぁ。どこへ連れて行けばいいのだろう??

交番、かな??

「よしよし、おかぁちゃんは何処だい??」

問いかけるも「おぎゃあおぎゃあ」と泣くのみ。

遠くの方で車がさっきの、道へと入ってくる音がした。

するとその音に反応してか赤ん坊は一層激しく泣き始めた。

男性も車の音に気を取られて一瞬そちらを向こうとした。そのとき。

あ、れ、?

やけに重い。

しかもどんどんと重さが増しているようだ。

何だ、これ??

相変わらず赤ん坊は激しく泣いている。

しかしその重さはすでに小学生の重さを超えていると思われる程。

あまりに重たいので手を放そうとしたが、いつの間にか首に手を回されて、しがみつかれるような格好になっているのだ。

こ、れ、赤ん坊・・・か??

あまりの重さにもう立っていられず、倒れそうになった瞬間。

ちょうどさっきの車がすぐそばを通った。

するとライトが、畦道のほうを一瞬だけ照らした。

そのライトの光の中浮かび上がったのは・・・

つるっぱげの小さな老人が、自分にしがみつき、満面の笑みを浮かべて「おぎゃあおぎゃあ」とまるで赤ん坊そのもののような、声で泣いているのだ。

うわぁぁぁ!

そのままさらに重さを増し、男性は畦道に倒れ込んだ。

気がつけば、いつの間にか夜が明けていた。男性は、自分が小さな道祖神を抱いて畦道で寝ていたことに気がついた。


紹介編につづく