一人百物語第九夜「携帯電話」

その日A子さんは部活が長引いていつもより帰りが遅くなってしまった。
大学からの帰り道、距離はそんなに遠くないけど、夜道は何だか不気味で気持ち悪い。
足取りもどことなく早くなってしまう。
そんなとき、不意に。

ぷるるるるるる

携帯が鳴った。

「ひっ!」
驚いて思わず声を上げてしまった。
気を取り直して電話の着信表示を見るとどこかで見たことある番号。
すぐに誰かは思い出せないがとりあえず出てみた。
「もしもし?」
すると相手は「こっちよ」と聞いたことのない女の声。
もしもしに対する受け答えとしてあまりに不自然なセリフであった。
あたりを見回しても暗い夜道には誰もいない。
何だか変な電話だなぁとA子さん思ったそうです。
「もしもし?あの〜どちら様でしょうか?」
問いかけた。
「こっちよ」
とまた同じセリフ。いたずら電話かしらとも思ったが何だか状況も状況だけに気持ち悪い。
さらに早足になって帰路を急ぐ。
「もしもし?どちら様か分かりませんが、いたずらだったら切りますよ!」
恐怖もあり、語気を強めて言い放った。すると電話の相手も、「だからこっちよ!」それまでとはうって変わって強い口調でピシャリと言った。
その瞬間勢いでもって彼女電話切っちゃった。
気持ち悪い電話だったしとりあえず切って一安心。
さぁ急いで帰ろうと再び歩き始めた瞬間。
携帯電話で話していた右耳とは反対側の左耳元すぐそばで、「こっちよ」
と聞こえたそうです。
慌ててそちら側を見たそうなんですが、やはり自分の周りには誰もいない。
もうすっかり怖くなった彼女。全力疾走でもって家まで走ったそうなんですがねぇ。
家に帰り一息ついて、ふと携帯の着信を確認すると、さっきの電話の番号、わざわざ登録してないから表示されなかったものの、よく見たら庭の離れにある電話の番号だったそうです。
その離れにはA子さん一家が引っ越して来たときから誰も住んでなかったそうなんです。
「一体どういうことなのか全然分かりません」
彼女はそう言ってました。
帰り道はそれ以来変えてしまったそうです。
しかし今でもたまにその番号から電話がかかってくるそうです。
その一件以来すでに電話は取り外してしまったそうなんですがね・・・


電話にまつわるお話は色々ありますが、このお話は何か意味がありそうで私好きなんですよね。