一人百物語 第20夜 入水 3

女性に近づいたはいいものの、中学生の我々にははっきり言ってどうしたらよいか分からない。

とりあえず一番気合いの入った友人のMが半裸となり、テトラポッドの上からへんなポーズを取ったりしてその女性の注意を引いた。

そして、波打ち際へ移動し、荒波に立ち向かう純朴な少年を演じた。

何してるんですか?とM が問うと、

色々あるのよ。と女性。

波、危なくないですか?とM

そうかもね。と女性

そんなやりとりをしているうちに、やがて女性の表情にも笑顔が見え始め、大分元気が出てきたようだった。

そして、もう帰らないといけない時間になり、その場を引き上げようとした。

女性は、ありがとう、と微笑んだ。

僕らは、ああ、この人はもう大丈夫だなと思った。
そしてびしょ濡れのMとともに友人の家に戻った。

しばらく新聞やテレビで行方不明の女性が表れないかとヒヤヒヤしたが、あの人らしいニュースはなかった。

僕らは胸をなでおろした。

Mは波打ち際でメガネをなくしたと大騒ぎしていた。

そんな中学時代の夏休みの一コマ。

DJ座長でした。