一人百物語 第四夜 「首なし地蔵さま」

ついに一人百物語を更新するときがやってまいりました。今回のお話は結構お気に入りです。心霊写真を扱ったお話は色々とあるのですが、こういったパターンもまた新鮮ですね。

では、どうぞ。



「首なし地蔵さま」


山崎さん(仮)という男性の友人が体験したお話。

山崎さんは中国地方に暮らす、普通の大学生なのですが、ある日休み時間に何をするわけでもなくぼーっとしていると、教室の入り口の方から誰かが足早に歩いて来る気配がした。

ふっと顔を向けると友人のAさんだった。

「おい、えらいことになった」

挨拶をする間もなく、Aさんは言った。ただならぬ様子に山崎さんも「これは何かあったな」と思った。

「どういうことだよ?何かトラブルにでも巻き込まれたのか?」

「・・・これ見てくれよ・・・」

Aさんは答える代わりに一枚の写真を差し出した。

「なんだよ。これに何か写ってるっての?普通の写真じゃないか。しかも女連れで、お前楽しそうに写ってるじゃねえかよ」

たしかにその写真は普通の写真。どこか分からないけど、背景が真っ暗だから夜に撮られたものであろう。Aさんを含めた男女が並んで写っていて、みんなが楽しそうに笑っている。
よほど撮影者がおどけたのか、みんなカメラマンの方、すなわち写真を見ている人の方を指差して笑っている。

「違うんだ・・・この写真おかしいんだよ・・・」

Aさんはすっかり怯えきったような様子でそうつぶやく。

「どういうことだよ?何があったか話してみろよ」

山崎さんはAさんの様子が心配ではあったが、どうにも話がなかなか始まらないことに少し苛立ちを覚え始めていた。

「実はな・・・」

Aさんの話をまとめるとこうだ。

Aさんは、普段学校にもロクに行かず、ある飲食店でアルバイトに明け暮れていた。

その日もいつものように昼過ぎから仕事に入って、深夜に帰宅する予定だったが、ちょっとした手違いでもって店を早く閉めることになった。というのもビルのガス管がどこかで破裂したらしいというガス会社からの知らせがあったために、その修理完了までは危なくてガスが使えなくなってしまったのだ。

ガスが使えないことにはどうにも店が回らないわけで、丁度お客も入っていなかったので臨時休業にしたというわけだ。

バイト仲間もみんな若い者ばかりだったから、自然と「早く終わっちゃったし、どっか遊びに行こうか?」ということになった。
そして季節が夏であったこともあり、誰言うと無く「首なし地蔵さん行かね?」ということになった。

いつもならAさん、みんなを乗せるときには実家のでっかいワゴンカーでもって出てくるんだけど、今日は急だったもんだからバイトに乗って来ていた5人乗りでぎゅうぎゅうになりながら行くことになった。


「首なし地蔵さん」というのは、地元で有名な心霊スポットである。

Aさんたちの住む町からは少し離れた山奥の墓地。車で大体一時間半程度のところ。国道を外れて山道に入り、県道をしばらく走った後、さらに県道も外れて獣道みたいなところをガタガタと走って、もうこれ以上進んでも何もないというくらいのところに突如現れる赤錆びた鉄の扉。

それを開くと、もはや誰も立ち寄っていないと思われる荒れ果てた墓地がある。墓石は倒れてしまったものや、ツタやコケで誰のものかすら分からなくなってしまったものが多く、非常に不気味な場所である。何故ここまで荒れ果てたかは誰にも分からないと言われている。

墓地を奥に進むと崩れかけたような廃寺があり、墓地の不気味さを一層増していた。つぶれた寺はどこかに移転したのだという噂もあったが、結局どこへ移転したのかはついぞ誰も知らない。

さて、その寺の裏側に回ると、墓地の真ん中に小さな祠が建っている。

そしてその祠の中には何者かによって首から上を破壊された、お地蔵さんが立っているらしい。

首から上は吹き飛ばされたかのように無くなっており、どこを探しも頭部は見つからないそうだ。

それだけでも十分不気味な心霊スポットなのだが、奇妙な言い伝えがある。

「首なし地蔵さんに見られたら死ぬ」

というものである。

ここでもちろん首が無い地蔵にどうやって見られるのだろう?という疑問があるが、それには「夜になると首から上がちゃんと乗っていることがある」とか、「あの地蔵は偽者で、本物は夜墓地の中を自由に歩き回っているのだ」とかいう憶測が流れたが、多くの人は前者の説を信じていた。

ゆえに誰も夜にその心霊スポットには行かなかった。行くにしても昼間に行くのが普通で、夜に行くのは自殺行為とされているのだ。このことからも、その地蔵に見られたら死ぬというのが本当に信じられていたことがうかがえる。

実際、夜に行った何人かが事故で亡くなったり、行方不明になったりしたという噂がまことしやかに囁かれていた。

そこに夜行ったというAさんの話を聞いた山崎さんは大いに驚いた。

「まさか!あそこに!?夜行ったの!?」

「ああ・・・」

Aさんは沈痛そうな面持ちで肯定した。

そして続けた。

Aさんたちがわいわい盛り上がりながら山道を走り、だんだん県道から獣道のような道路に入って行くにつれ、街頭も全く無くなっていく。真っ暗闇の山奥の中で、光を放つものは自分たちが乗る車だけであり、周りの闇が自分たちを押しつぶそうとしているかのようなプレッシャーを感じさせた。

メンバーは何とも言えない嫌な感じを覚えて、自然と口数が少なくなりかけたが、それではいけないと判断したAさんが、殊更に声を張り上げておどけた話をし、なんとかテンションを保ったまま、例の赤錆びた鉄の扉の前に辿り着いた。

真っ暗闇の中、懐中電灯の明かりに照らされたその扉はとんでもなく不気味なものだったが、ここまで来たのだからと、Aさんが先頭を切って扉を開けた。

ギィィィィ・・・と錆びた音がしてその扉が開いた。

その中には、噂で聞いたとの寸分も違ぬ荒れ果てた墓地があった。

「す、すっげえなぁ・・・」

これほどまでに荒れ果てた墓地は見たことがなく、山奥の暗闇でただでさえ心細かったのが、心を素手で握りつぶされているかのような思い心境にさえなった。

みんな内心帰りたかったのだが、お互い臆病者だと思われたくないものだからなんとかAさんについて行った。

みんな身を寄せ合うようにして荒れ果てた墓と墓の間をしばらく進むと、これまた噂どおりの廃寺があった。誰も使わなくなってからどれだけ経っているのだろうか?すっかり荒れ果て、ところどころ瓦も落ちていて、ほとんど崩れかけていた。

「ここかぁ。すげえ寺だな・・・この裏に、地蔵さんがあるんだよな?」

すると誰かが、

「この中を通るのはヤバクねえか?床踏み抜いて怪我してもつまんねえし・・・」

と言ったので、それもそうかということで、本堂・・・だったであろう建物の横から。草をかき分けながら裏手に回ることにした。
女の子たちは虫がいそうで嫌だと言ったが、「中には虫よりも恐ろしいものがいるかもしれないよ」というAさんの言葉に、しぶしぶ草むらを通ることに同意した。

そうして本堂の裏に回りこむと、10メートルほど先に、小さな祠のようなものが見える。

「あれ?あれじゃねえか?」

「あ、そうっぽいな」

などと言いながら近づくと、やはり噂の祠らしかった。せいぜい大人の男のへそくらいまでの高さしかない祠で、正面には観音開きらしい扉がついていた。どうやらカギはついていないようだ。

いざ祠を前にすると、みんな噂を思い出して背筋が寒くなった。

・・・首無し地蔵さまに見られたら、死ぬ・・・

「大丈夫だよ。どうせ首なんかありゃしないんだから」

割と心霊の類いに強いAさんはそう言ってみんなを勇気つけ、扉に手をかけた。

「おい!まじで開けるのかよ!?ちょっとヤバクねえか?」

恐ろしくなったのか、メンバーの一人が制止する。

「じゃあ、止めとく?でもせっかくここまで来たんだぜ?それにどうせタダの噂だから大丈夫だよ」

Aさんはその男を説得して、

「よし、じゃあ開けるぞ・・・いいな?」

みんな観念したようで、黙ったままこっくりと頷く。女の子は見るのが怖いのか、手で顔を覆っている。

「せえの!」

ギィィィ・・・

嫌な音を立てて観音開きの扉が開き、中が露になった。

そこには、小さな石造りのお地蔵さんが立っていた。

そしてそのお地蔵さんには・・・首が無かった・・・

「おお〜本当に首がねえぞ!」

「うわぁ、本当ね」

「すっげえなあ」

みんな噂どおり首が無いお地蔵さんに、不気味さ半分、安心半分で口々に声を上げた。

「これで少なくとも、このお地蔵さんに見られることは無いわけだ」

Aさんがそういうと、みんな何だかほっとした。

すると一瞬間をおいて、みんな緊張の糸が切れたように笑い出した。

「やっぱりなぁ・・・見られるなんてタダのうそじゃねえか!」

「普通に首がないだけのお地蔵さんじゃねえか!」

「ち、変にびびらせやがってよう!」

などとみんなが言う中、Aさんが急に何かを思いついたように、

「おいおい!みんなこの地蔵さん首が無くて可愛そうだよなぁ?」

「たしかになぁ。でもそれがどうかしたのか?」とメンバー。

「いや、ならせっかくだし、これをプレゼントしてやろうぜ?」

とニヤニヤしながらポケットから某アニメのキャラクター(よくタヌキと間違えられる有名なネコ型ロボット)の顔を模したゴムボールを取り出した。

みんな「それはいくら何でもヤバいだろう」と口々に止めたのだが、心霊の類いをあまり信じていないAさんは強気で、

「ばーか、笠地蔵と同じことだよ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはねえよ」

と言いながらぽんっとゴムボールを地蔵さんの首のところに乗っけた・・・

すると、頭がド○エモンの地蔵さんが現れたのである。

これには一同大爆笑。

現場の異様な緊張感と、間が抜けたお地蔵さんの有様にもうみんな笑いがこらえられない。

もう腹を抱えて、地蔵さんを指差しながらみんな笑った。


そうしてひとしきり笑った後、みんな引き上げた。

以上がAさんが聞かせてくれた話である。


話を聞き終えた山崎さんは、

「で、お前ら無事に帰って来れたんだろう?よかったじゃねえか」

といぶかしげに言う。

するとAさんは、

「いや、だから全然よくねえんだって!この写真ヤバすぎるんだよ!」

と半ば怒り気味に言った。少し精神的に不安定なのではないか?と山崎さんはそのとき思ったという。

「何がだよ?何も変なもの写ってねえじゃ・・・」

山崎さんそこまで言って言葉を止めた。何かおかしい。

「ん?おい、お前の車で行ったんだよな?」

「ああ・・・」

「この写真・・・お前も写ってるよなあ?」

「ああ・・・」

「んで、ここに五人並んで写ってる・・・」

「ああ・・・」

「じゃあ・・・この写真・・・誰が撮ったんだ?」

山崎さんは言いながらどんどん背筋が寒くなっていくのが分かった。Aさんの車は五人乗りなわけだから、写真に五人が写っているのはおかしい。

Aさんは一瞬間をおいて、

「それが分からないから、困ってるんだよ・・・」

と重々しくつぶやいた。


「あ、セルフタイマーとかじゃないのか?」

山崎さんが尋ねると、

「オレの使い捨てカメラにセルフタイマーなんかついてなかったよ・・・」

「そうか・・・」


しばらく黙った後、山崎さんは尋ねた。

「お前ら、この写真撮った覚えがねえのか?」

「もちろん。俺ら以外の誰もいなかったからなあ・・・」

力無く答えるAさん・・・

「この、みんなで指差して笑ってるこのシーンにも覚えはないのか?」

「いや、ある。たぶん、それみんなで地蔵さんの首にボール乗っけたのを笑っているとこだな・・・」

沈痛な面持ちでAさんが答えた。写真の五人はカメラの方を指差して笑っている。

「じゃぁ、何か?これってもしかして・・・」

「ああ、たぶん・・・首なし地蔵さんは・・・俺らを見てたんだよな・・・」

Aさんはそう言って口をつぐんだ。山崎さんも何を言っていいか分からなかった。


「あの後さ・・・他の4人と連絡がつかねえんだ・・・」

不意にAさんが口を開いた。

「え?」

山崎さんは驚いた。


「なぁ山崎よ・・・オレ、一体どうなっちまうんだろう?」


これにはもう山崎さん、答えようが無かったそうだ・・・


「もしかしたら、地蔵さんの見た彼らの姿が念写っていうのか分からないですけど、フィルムに写ったってことなんでしょうかね・・・え?Aのヤツですか?それが・・・アレ以来連絡取れないんですよ・・・学校にも来てないし・・・」

と言ったきり、山崎さんは何も話さなくなってしまった。





私、思うんですが、首なし地蔵さまに首が無いのは、その昔、その地蔵さまの強力な呪いを知った寺の人か誰かが、命がけでもって首を破壊したのではないでしょうか?そこの寺がつぶれてしまったのも、丁度地蔵さまから見える位置に建っていたということも絡んでいるような気がしてなりません。

そこへきて、Aさんがゴムボールとはいえ、首なし地蔵さまに顔と目を与えてしまった・・・

だとすると、呪いの犠牲はまだまだ増えるのではないでしょうか?

そんな気がしてなりません・・・


みなさんも、むやみに心霊スポットに行くのはよした方がいいでしょう・・・


それでは、See you next nightmare!!

DJ座長でした!